2012年1月30日月曜日

照明の明るさ

環境部の前山です。
今回のテーマは、「照明の明るさ」についてです。

1.はじめに
 東日本大震災に伴う今回の節電の動きを受けて、“余計な明かりは消してみよう”と試みたオフィスはあちこちにあると思います。私達のオフィスでも、昨年の7月から節電の為に天井照明を間引きして、およそ半分の明るさで過ごしています。暗いと感じて、常設の手元照明を点けている人もちらほらいますが、ほとんどの人は現状を受け入れてくれている様です。

 さて、節電はやりたいんだけど、暗いのを我慢するのも嫌だし、文句を言われるのも嫌だからと躊躇した施設担当の人達も多くいたと思いますが()、そもそも「必要な明るさ」とはどうやって決まっているのでしょうか?

2.いくつかの基準
 明るさは、照度という指標で表し、ルクス[lx]という単位を用います。国内で最も多く参照されている基準はJIS照度基準であり、一般的なオフィスを例にとると、750ルクスという照度が設定されています。

 この他、労働安全衛生法(昭和47年制定)では、精密な作業を行う事務室では、300ルクス以上の照度を必要としています。海外に目を向けると、アメリカでは200~500ルクスという基準が出てきます。比較してみると、JIS基準はかなり高い様に見えますね。

3.JIS基準の見直し
 JIS照度基準は、2010年に30年ぶりに改定されています。それまでの基準では、事務室は「5001000ルクス」の様に範囲で表現されていたのが、分かり易い様に推奨照度を「750ルクス」と代表値で表記されました。

 ところが、今回の電力供給不足の動きを受けて、JIS照度基準は20115月に推奨照度を補足する意味合いで、もとの照度範囲表記「5001000ルクス」を復活させているのです。この見直しは、利用実態に応じて適切な照度を設定して、より節電を促進させようとする意向の表れだったといえるでしょう。

 更に言えば、2010年の改訂で明記した推奨照度が過剰だったという見解が反映されたともいえます。新規ビルの設計においては、他のビルとの競争により、JIS基準よりも照度設定を高くする傾向があり、結果として省エネに逆行する状態となっていました。

4.これからの明るさ
 照明設計を行っていると、明るすぎるというクレームは稀ですが、暗いと必ずクレームになります。それ故に、照明設計者の中には「暗い」を避ける為に、過剰に照明を設置する設計者も少なくありません。新しくオフィスを計画する施設担当の方々にも、同じような傾向はあるかもしれません。

 ちなみに私達のオフィスの天井照明は、概ね800ルクスから400ルクスに半減させましたが、手元照明を併用していることもあって、意外なことにクレームはほとんど出ていません。実際に400ルクスの照明環境で、細かい設計図を見ながら仕事をしていますが、個人的にはまったく支障はないと感じています。 

自席の机上照度 389lx
  
照明環境を考える人達は、「過不足のない明るさ」というものを、もう一度検証してみる必要があると思います。そして、自信を持って「間引き消灯するくらいなら、最初から照明器具を減らしてしまいましょう」と提案していきたいものです。

 最近、力を入れているこの提案は、あちこちの自治体でも受け入れられてきています。
それらを見ると、時代は変わってきたんだなぁと日々感じるこの頃です。


環境部 前山

2012年1月13日金曜日

カーテンを閉めると結露する!?

環境部の小縣です。
今回は窓ガラスでの表面結露について考えてみます。

1.はじめに
 結露は、湿った空気が冷たい固体表面に接触することによって発生します。結露というと、冬の窓ガラスに水滴が付着する現象を思い浮かべる方が多いと思いますが、夏に缶ジュースの表面に水滴が付着するのも結露現象の一種です。
 建築分野では、結露を発生部位の観点から表面結露と内部結露の2つに分類します。表面結露とは構造体表面における結露のことを指し、内部結露とは構造体内部での結露のことを指します。私たちが普段生活する中で目にするのは、ほとんどが窓での表面結露です。今回は、この窓ガラスでの表面結露について考えてみたいと思います。

2.結露が発生しやすい条件
 窓ガラスでの結露は、ガラスの表面温度が低く、周辺空気の相対湿度が高い時に発生します。相対湿度が高くなる最も大きな要因は、室内に水蒸気発生源が存在することです。水蒸気発生源と言えば、調理や加湿器、浴室などが代表的な例ですが、意外と見落とされがちなのが、室内干しの洗濯物、観葉植物、人体、石油系ストーブです。これら発生源は、水蒸気発生量に違いはありますが、全て相対湿度の上昇に寄与します。一方、ガラス表面温度を低下させる要因は外気温度です。外気温度が低いほどガラス表面温度も低くなります。そして、この表面温度の低下を助長するものがあります。それがカーテンです。

3.ガラス表面温度とカーテンの関係
 カーテンには、僅かですが断熱効果があります。カーテンを閉めると室内から室外への熱の流出が抑えられ、暖房負荷は減ります。しかし、断熱効果があるということは、熱の通過を妨げるということでもあります。以下の図は、外気温が0、室内温度が20の時のガラス室内側表面温度を示しています。

カーテン有りの場合のガラス室内側表面温度は4.1℃であり、ガラスのみの場合の6.2に比べ約2低くなっています。これは、カーテンを閉めると熱の流れが妨げられてしまうため、ガラス表面まで到達する熱量が減ってしまうからです。断熱性能を向上させるカーテンですが、結露に対してはマイナスに働いてしまいます。では、断熱性能の向上と結露危険性の低下を両立させるにはどうすればいいのでしょうか?
 カーテンではなく雨戸を閉めるというのが一案です。カーテンには断熱効果があると述べましたが、雨戸にもカーテンと同等の断熱効果があります。雨戸を閉めた場合の表面温度を以下に示します。
雨戸有りのガラス室内側表面温度は10.8℃であり、ガラスのみの6.2℃に比べ約4℃高くなっています。これは、雨戸を閉めることにより、雨戸から外へ逃げていく熱が減り、雨戸よりも室内側にあるガラスの温度が上昇するためです。よって、雨戸であれば、断熱性能向上と結露危険性の低下を同時に満足させることができるということになります。

4.その他の結露対策
 前章では、ガラス表面温度の低下を防ぐ方法の一例を紹介しましたが、もちろん室内の相対湿度を低減させることも結露対策として有効です。まず水蒸気発生源を特定し、その発生源からの水蒸気発生量を低減させることができるかを検討します。石油系ストーブを使っているのであれば電気式暖房器に変更し、加湿器による加湿を行なっているのであれば加湿量を見直します。人体や観葉植物からの水蒸気発生はコントロールするのが難しいため、適度に換気を行うのが良いでしょう。
今回、結露が発生するのは高い相対湿度低い表面温度の条件が揃った時であると紹介しましたが、実際の建物では様々な要因が複雑に重なり合い結露が発生します。しかし、どのような結露もまず、水蒸気発生源と温度低下の要因を調査してみて下さい。