環境部の前山です。
今回のテーマは、「照明の明るさ」についてです。
1.はじめに
東日本大震災に伴う今回の節電の動きを受けて、“余計な明かりは消してみよう”と試みたオフィスはあちこちにあると思います。私達のオフィスでも、昨年の7月から節電の為に天井照明を間引きして、およそ半分の明るさで過ごしています。暗いと感じて、常設の手元照明を点けている人もちらほらいますが、ほとんどの人は現状を受け入れてくれている様です。
さて、節電はやりたいんだけど、暗いのを我慢するのも嫌だし、文句を言われるのも嫌だからと躊躇した施設担当の人達も多くいたと思いますが(笑)、そもそも「必要な明るさ」とはどうやって決まっているのでしょうか?
2.いくつかの基準
明るさは、照度という指標で表し、ルクス[lx]という単位を用います。国内で最も多く参照されている基準はJIS照度基準であり、一般的なオフィスを例にとると、750ルクスという照度が設定されています。
この他、労働安全衛生法(昭和47年制定)では、精密な作業を行う事務室では、300ルクス以上の照度を必要としています。海外に目を向けると、アメリカでは200~500ルクスという基準が出てきます。比較してみると、JIS基準はかなり高い様に見えますね。
3.JIS基準の見直し
JIS照度基準は、2010年に30年ぶりに改定されています。それまでの基準では、事務室は「500~1000ルクス」の様に範囲で表現されていたのが、分かり易い様に推奨照度を「750ルクス」と代表値で表記されました。
ところが、今回の電力供給不足の動きを受けて、JIS照度基準は2011年5月に推奨照度を補足する意味合いで、もとの照度範囲表記「500~1000ルクス」を復活させているのです。この見直しは、利用実態に応じて適切な照度を設定して、より節電を促進させようとする意向の表れだったといえるでしょう。
更に言えば、2010年の改訂で明記した推奨照度が過剰だったという見解が反映されたともいえます。新規ビルの設計においては、他のビルとの競争により、JIS基準よりも照度設定を高くする傾向があり、結果として省エネに逆行する状態となっていました。
4.これからの明るさ
照明設計を行っていると、明るすぎるというクレームは稀ですが、暗いと必ずクレームになります。それ故に、照明設計者の中には「暗い」を避ける為に、過剰に照明を設置する設計者も少なくありません。新しくオフィスを計画する施設担当の方々にも、同じような傾向はあるかもしれません。
ちなみに私達のオフィスの天井照明は、概ね800ルクスから400ルクスに半減させましたが、手元照明を併用していることもあって、意外なことにクレームはほとんど出ていません。実際に400ルクスの照明環境で、細かい設計図を見ながら仕事をしていますが、個人的にはまったく支障はないと感じています。
自席の机上照度 389lx |
照明環境を考える人達は、「過不足のない明るさ」というものを、もう一度検証してみる必要があると思います。そして、自信を持って「間引き消灯するくらいなら、最初から照明器具を減らしてしまいましょう」と提案していきたいものです。
最近、力を入れているこの提案は、あちこちの自治体でも受け入れられてきています。
それらを見ると、時代は変わってきたんだなぁと日々感じるこの頃です。
環境部 前山 薫